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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)1063号 判決

原告 尹祐鉉 外二名

被告 国

訴訟代理人 鰍沢健三 外五名

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

本件につき昭和三十一年二月二十日当裁判所がなした強制執行停止決定はこれを取消す。この判決は本項に限り仮りに執行することができる。

事実

一、 請求の趣旨

(原告等全部の分)

(一)  被告が訴外財団法入国際文化学会代表者理事河村文輯こと金文輯、阿部広、金原再根、中村春正、馬場梅吉、二階堂道子、大建工業株式会社代表者代表取締役吉原郁夫を債務者とする東京地方裁判所昭和三十年(ヨ)第五、九四〇号不動産仮処分決定に基いて昭和三十年十月十日別紙第一物件目録記載の土地及び家屋についてなした仮処分の執行はこれを許さない。(原告全洪植の分)

(二)  被告が訴外財団法人国際文化学会代表者理事河村文輯こと金文輯、田井八千郎を債務者とする東京地方裁判所昭和三十年(ヨ)第六、七二二号不動産仮処分決定に基いて昭和三十年十一月十二日別紙第二物件目録記載の土地及び家屋についてなした仮処分の執行はこれを許さない。

(三)  訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。

二、請求の原因

被告は訴外財団法人国際文化学会代表者理事河村文輯、阿部広、金原再根、中村春正、馬場梅吉、二階堂道子、大建工業株式会社代表者代表取締役吉原郁夫に対する請求の趣旨表示の仮処分決定及び訴外財団法人国際文化学会代表者理事河村文輯こと金文輯、金文輯、田井八千郎に対する請求の趣旨表示の仮処分決定に基いて、昭和三十年十月十日別紙第一物件目録記載の土地及び家屋又同年十一月十二日別紙第二物件目録記載の土地及び建物に対し、現状不変更占有移転禁止の仮処分を執行した。然るに原告尹祐鉉は昭和三十年五月二十日、同全洪植は同年六月二十五日、同金在信は同年八月二十日以来、訴外財団法人国際文化学会の賛助者となり同学会の事業に協力することとなつたが、同学会が昭和二十一、二年頃より国から貸付を受け、昭和二十八年十二月払下を受けることに確定していた、東京都港区赤坂一ツ木町三六番地旧近衛三連隊跡六八四三坪八一の内七四六坪六一(実測七七五坪七一)の敷地の内、別紙目録記載の部分について、学会との間に一応原告の出損を以て学会の用に供する研究所や理事社宅を建築し、原告等も其処に居住することとし、将来学会の財政が堅まり右出損が学会から補償された場合にはその所有を学会に帰させることとし、土地使用の対価として、原告尹は二十一万円、原告全は十二万五千円、原告金は二十二万円を、訴外財団法人国際交化学会河村文輯(金文輯)に交付し、右学会の名に於て建築認確を受け各自建築費を支出して建築をなしたが、土地使用については建築完了後敷地を実測確定して適当の使用対価を学会に支払うことを約していたので、原告等は学会との間に賃貸借契約を結んで原告尹は昭和三十年六月一日、全は同年八月一日、金は同年九月二日夫々学会から土地の引渡を受け、原告尹は同年六月二十八日、全は同年九月九日建築工事に着手し、金は同年十月一日工事の請負契約をなし、着工の運びになつていたものであつて、仮処分執行当時は原告尹の家屋は七割、全の家屋は三割程度進捗していた。従つて右執行は第三者たる原告等の占有する土地及び家屋を仮処分債務者の占有にかかるものと誤認してなされた違法があるのでその取消を求める。

三、答弁の趣旨

原告等の請求を棄却する訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求める。

四、答弁事実

原告等主張事実中被告が仮処分決定の執行をしたこと、被告が訴外財団法人国際文化学会に東京都港区赤坂一ツ木町所在の旧近衛三連隊跡の土地六八四三坪八一の内七七五坪七一(実測による)を貸付けたことは認めるが、その他の事実は争う。右貸付期間は、前記七七五坪七一のうち五一七坪五二については昭和二十八年十二月三十一日まで、その余の二五八坪一九については昭和二十九年七月十日までゞあつて、右期間の満了と共に賃貸借契約は解除されたもので、右土地を訴外学会に払下げるべく確定していたことはないので原告等の請求は失当である。

五、証拠

(原告)甲第一乃至十四号証証人石川藤三郎、三田村多三郎、赤羽久吉、原告尹祐鉉、全洪植、金在信の供述、乙号証は成立を認める。

(被告)乙第一、二号証、証人金文輯の供述、甲第三、四、五号証、第九乃至十三号証は不知、その他の甲号証は成立を認め、同第一、二六、七号証は利益に援用する。

理由

一、被告が訴外財団法人国際文化学会に土地を賃貸したこと、被告が仮処分決定を受けその執行をしたことは当事者間に争いがない。

二、よつて原告等が右財団法入国際文化学会より賃借占有している土地に対し、仮処分の執行がなされたものであるか、どうかを検討する。真正に成立したと見るべき甲第三、四、五、九、十、十一号証と証人石川藤三郎、三田村多三郎、赤羽久吉、原告本人尹祐鉉、金在信、全洪植の供述によれば、原告等主張のように原告等が夫々昭和三十年六月より九月初め頃に亘り、右学会より土地を賃借したように見られるが、成立に争いのない乙第一、二号証、甲第六、七、八号証と証人金文輯の証言とによれば、前記学会は、原告等に土地を賃借したものでなく原告等が学会の名に於て建物を建てて、学会に出資し、原告等はその建物の一部を使用することを認められ、将来学会に於て資金が出来たときは原告等に建築費を償還する約束であつたもので、原告等は独立して土地又は建物を占有するものでないことを認めるに十分である。

三、右の次第であるから、原告等が土地を賃借占有していることを前提とする本訴請求を理由のないものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十三条第八十九条、強制執行停止決定の取消及びその仮執行につき同法第五百四十八条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 真田禎一)

第一、第二物件目録〈省略〉

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